パレスチナ・ヨルダン視察

はじめに

国連機関の一つである国連児童基金(UNICEF:ユニセフ)は、世界中で貧困や紛争などにより厳しい生活環境下に置かれている子どもたちを、病気や暴力から守り、夢と希望を持って人生の再スタートを切り、社会で活躍することができるようにするために、①保健、②栄養、③教育、④水と衛生、⑤HIV/エイズ、⑥子どもの保護、⑦ソーシャル・インクルージョン(隔離や排除ではなく共に助け合って生きる考え方)の7つの分野に重点を置いて支援活動を進めています。

 

今回、ユニセフ議員連盟の一員として、自由民主党のあべ俊子衆議院議員と共に、ユニセフの皆様をはじめ、パレスチナ、イスラエル、ヨルダン、外務省・現地大使館の絶大なるご協力のもと、パレスチナのカザ地区・西岸地区とヨルダンのザータリ・シリア難民キャンプに行かせて頂きました。ユニセフの難民支援の現場を訪問させて頂き、支援の一つ一つが各地域の弱い立場にいる子どもや母親の命と希望を守る重要な役割を果たしていること、そして如何に環境が厳しくとも元気に明るく生き抜いている子どもたちがそこに居ることに、心から感動いたしました。

 

この訪問を通して、難民の子どもたちに対する支援の継続と同時に、この子どもたちが大きく成長し将来の中東地域の平和の要として活躍できるような、中長期的な視野に立った総合的な支援の必要性を感じました。すべての国々が、すべての子どもや青年へ、非暴力を大前提にした教育と就労機会を創出しながら、時を重ねやがて新しい世代による平和と安定への対話が展開され、あらゆる困難な課題が「寛容な心」と「信頼と友情」で大きく包まれる時代を展望し、ユニセフの活動を全力で支えて行きたいと考えています。大変にありがとうございました。

 

日程並びに個々の視察についての所見を添付させて頂きましたので、是非御覧ください。

2016年10月20日   

公明党 衆議院議院 輿水恵一


スケジュール



ヨルダンのシリア難民支援について

人口が約950万人のヨルダンでは、シリアからの難民を約66万人受け入れています。今回訪問させて頂いたザータリ難民キャンプは、5平方キロメートルの敷地に約8万人が生活しており、この住民の5割以上が18歳未満の子どもとのことでした。

 

ここではライフスキルを含む総合的な教育とともに心のケアを必要とする子どもたちも多く、未来を担う子どもたちへの重層的な支援が展開されていました。また、一人一人の安全な水への安定的かつ継続的なアクセスや、汚水による衛生環境の悪化を防ぐことを目的に、上下水施設の整備も進められていました。

 

今後は、シリア難民の命をつなぐ緊急的な支援の提供と共に、中長期的な観点に立って、専門的な教育とともに就労への支援、また身体的・精神的障害をもった人々や、身寄りのない一人暮らしの若者やお年寄りなどへの福祉的な支援体制の構築も重要になってくると感じました。

人道支援から開発支援へのつなぎ目のない活動を展開し、長期化した紛争の中で育った子どもたちや、変化するコミュニティへのニーズも拾い上げ切れ目のない支援を行っているユニセフと連携し、シリア難民と共にヨルダン国家の永続的な繁栄と発展のための取り組みを、現地政府機関および企業等と協力し推進して行きたいと思っています。

ザータリ難民キャンプの第5小学校の訪問について


教育は地域の未来を築く土台となるものであり、難民キャンプ内にも小学校が開設され、シリア難民の子どもたちが元気いっぱいに集い学んでいました。

この難民キャンプの子どもたちが様々な困難を乗り越え立派に成長し、中東の平和と発展のために活躍できるような社会環境の構築が、全世界の平和と安定の土台となるものと感じました。

ザータリ難民キャンプのマカニ・センターの訪問について


日本の支援とユニセフにより難民キャンプ内に開設されたマカニ・センターでは、学校に通えない子どもへの読み書きや計算などの学習指導、心理的サポート、ライフスキル講習をはじめ、女性の地位や権利の向上へのカウンセリングなど、子どもたちが健全に成長するための総合的な支援プログラムが展開されていました。

貧しい生活と将来への希望が見えない状況の中で、一生懸命に生き抜いている子供たちの姿に中東平和への思いを新たにして参りました。

ザータリ難民キャンプの乳幼児への栄養提供センターの訪問について


栄養提供センターでは、子どもの体と脳の成長にとって母乳をはじめ適切な栄養が非常に大切であること、また母親にとってもミネラルや鉄分の不足が体に不調をきたすことなど、栄養の適切な摂取について一人一人に丁寧に教えていました。

「ここに集うことで元気になります!」との集っていたお母さんたちの声。栄養指導と同時に子育てに悩む母親同士の交流の場としても大きな役割を果たしていました。

ザータリ難民キャンプの浄水供給施設の視察について


日本とユニセフの支援により、難民キャンプの人々の安全な水への安定的かつ継続的なアクセスや、汚水による衛生環境の悪化による病気を防ぐことを目的に、上下水施設の整備が進められていました。

以前はキャンプの外にある給水施設からトラックで水を運んでいましたが、現在はこの給水施設の整備により、大幅にコストが削減されていました。

また、水汲みに追われていた小さな子どもたちが、その重労働から解放されたことも大きな成果であると感じました。

この給水施設の整備をはじめ、大切な寄付金や拠出金を効率的に活用し、より多くの子どもや家族への支援を届けるために様々な工夫がなされていました。

ヨルダン市街におけるJENとの連携支援について


ユニセフでは、キャンプ外でも紛争や災害により厳しい生活を余儀なくされている人々の自立に向けた支援を行っています。

世界中で支援事業を展開する特定非営利活動法人JENと連携し、ヨルダン市街のシリア難民も通っている学校の飲み水やトイレなどの水環境の整備を進めていました。

ここでは、トイレ掃除などを通して自分たちの生活環境を自分たちで守ることの大切さを知ってもらうことなど、日本人にしか出来ないと思われる取り組も進められていました。

ヨルダン市街におけるICCSとの連携支援について


国連が登録した480万人のシリア難民のうち、66万人がヨルダンで難民として生活している他に100万人以上のシリア人がヨルダン国内で知人を頼って居住しているとのことでした。

この様にシリア難民の支援については、難民キャンプだけでなくヨルダンのコミュニティへの支援も必要となっております。

ユニセフでは日本の支援を活用し、現地の非営利活動法人ICCSと協力し市街地の施設で、シリア難民を中心にライフスキル教育、学習指導、心理サポートなどの事業を展開していました。

ヨルダンで暮らすシリア難民が地域を担う人材として成長するための要となる事業であり、今後は就労支援プログラムの展開など事業の拡充の必要性も感じました。


パレスチナ難民の支援について

日本政府とUNICEFの連携による活動の歴史は67年であり、パレスチナ支援における協力は2004年より今日まで12年間、当初の5年間は保健分野に重点を置きその後は教育や虐待防止など人道支援も展開されて来ました。

最も弱い立場にいる子どもたちへの支援を重視しているユニセフの活動により、乳幼児の死亡率の低下、安全な飲料水の受給率の向上、就学率の向上など、現地の子どもを取り巻く生活環境が大きく改善されていました。この子どもたちに希望の未来が開かれるように全力を尽くして行きたいと思います。

パレスチナの状況(UNICEFの資料より)

長期に渡る紛争と占領の影響で、パレスチナの経済と生活は不安定な状況。2014年夏のガザでの紛争から2年が経過した今も破壊された街の再建は終わっておらず、人々は不発弾への恐怖を抱え生活している。水と衛生設備の破壊から、子どもが水に起因する病気にかかるリスクが増加し、必須薬品の慢性的欠乏により保健システムの弱体化が進んでいる。西岸地区のパレスチナ人は、複雑な占領システム下での生活を余儀なくされ、住居建設や学校、井戸掘り、道路建設が制限されている地域もある。2015年後半、西岸地区での緊張が高まり、10月には広範囲で暴力衝突が発生。西岸地区でのパレスチナ人の1ヶ月の犠牲者数は2005年以降で最大を記録した。2016年6月現在、紛争の被害を受けているパレスチナ人230万人のうち100万人が子ども。支援を必要としているパレスチナ人45万人のうち25万人が子ども。

パレスチナ・ガザ地区のファミリーセンター


日本とユニセフの支援により、武力攻撃や暴力により心身に傷を負ってしまったガザ地区の子どもたちとその母親が、希望の未来に向かって進んで行く気力を取り戻せるように一人一人を温かく迎え入れ、ライフスキル教育や心理的サポートなど様々な生命の再生プログラムが展開されていました。

「こんな所まで来てくれて、私たちの地道な活動に光を当ててくれたことが嬉しくてたまりません!」とのセンター代表の言葉に、困難に挑んでいる現場に行くことの大切さを改めて感じました。紛争により深い傷を負った人々に寄り添い励まし続ける、この地道で誠実な事業が日本の支援で進められていることに心から感動致しました。

パレスチナ・ガザ地区のアル・マジュダル女子中等学校


日本とユニセフの支援で、パレスチナの未来を担う子ども達のコミュニケーション能力、クリティカルシンキング、協調性、創造力を向上させる教育プログラム、更に雇用の機会を広げるためのスキルトレーニングが、カザ地区内の中等学校で展開されていました。地域の子ども達が午前と午後の2グループに分かれ、皆が元気いっぱいに集い学び合っていました。

「遠い日本から会いに来てくれて本当に嬉しいです!戦後の焼野原から大きく発展した日本が私たちの希望であり憧れです!」と未来に向かって勇気の挑戦を貫く一人一人の姿に心を打たれました。高い壁に囲まれた閉鎖的な社会の中で、未来への不安を抱えながらも目を輝かせて一生懸命に学ぶ生徒の姿に、パレスチナの未来の発展を確信して参りました。

パレスチナ・ガザ地区のアル・シファ病院の新生児集中治療室


日本とユニセフの支援により、ガザ地区内のアル・シファ病院に新生児集中治療室が整備されると共に、医療従事者300人に重篤患者の管理に関するトレーニングを実施。これまで30%であった新生児死亡率が7%と劇的な改善が成されていました。

「生まれたばかりの子どもが亡くなるのを、ただ見ているだけだった私たちに、子どもたちを救う力を与えて頂き本当にありがたい!」との院長の挨拶。自分たちの給与の入金が滞る中でも、日本の支援に感謝し生き生きと働く現場の医療スタッフの姿に心を強く打たれました。

パレスチナ・ガザ地区の地下水の淡水化プラント


日本とユニセフの支援により、塩分の濃度が高く飲むことができない地中海に面した地域の井戸水を淡水化するプラントが整備され、地域住民約1万5千人が安心して飲める水を得ることが出来るようになっていました。

「安心して飲める水があることへの喜びは、ここにいる人にしか分かりません!日本の支援に心から感謝しています!」との現地スタッフの声。日々、ギリギリの生活環境下で生き抜いている人々の姿を目の当たりにし、改めて安心して暮らせる日常の有り難さを感じました。

パレスチナ西岸地区の給水支援事業


日本とユニセフの支援により、荒野で暮らすパレスチナ遊牧民にも安全な水を届けるために、給水タンクの整備と給水車の配備がなされていました。

さらに日本とユニセフの活動でパレスチナに普及させた“母子手帳”が有効に活用され、すくすくと育った子どもたちが、その子どもたちから見ると祖母の祖母にあたる105歳の長老婦人を筆頭に祖母の母、祖母、そして父母と仲良く暮らしていました。

すべての子どもたちが安心して安全にそして幸せに暮らせる社会環境を創造するユニセフの地道な活動の大切さを痛感致しました。

東エルサレムのワディ・ヒルワ・センター訪問


子どもたちが一方的な理由により拘束されたり、学校への通学を妨げられたりするパレスチナの社会環境にあって、どんな状況下でも我慢強く冷静に行動することついて、子どもと大人が一緒に学び確認しあっていました。

ここでは日本の合気道を通して、相手に動きに逆らうことなく、身をかわし自分を守ると同時に、常日頃からの用心の心も学んでいました。

「力を持つものが自分の思いを優先し他者を弾圧するのではなく、力を持つものが弱い立場にある子どもたちとその未来を守ること」を優先する社会の一日も早い構築が必要であると感じました。

パレスチナ政府、イブラヒム・アルシャエール社会問題省大臣との懇談

ジャード・アブアムル副大統領から、パレスチナの子どもたちの置かれている厳しい状況とその改善に向けての取り組みについて伺いました。

私からは、ユニセフとの協力のもとパレスチナの子どもたちの健康を守ることと同時に、一人一人の可能性を大きく広げる教育と就労支援について力を尽くして行きたいとの思いを伝えさせて頂きました。


ムスタファ・バルグーティ博士(パレスチナ・ナショナル・イニシアチブ事務局長)との懇談

ムスタファ・バルグーティ博士からは、ガザ地区だけでなく西岸地域においても、パレスチナの居住区域が斑点模様のように次々と高い壁に囲まれ、人々の移動の自由が奪われている実状についての説明がありました。

今後のパレスチナの平和と繁栄のためにどのような取り組みが大切かとの私の質問に対して、非暴力と対話を貫くとの決意の込もった方針が示されました。

私は博士の意見に全面的に賛同すると共に、この非暴力と対話を貫くための勇気と忍耐の拡大の必要性について確認合い、ユニセフとの協力のもとで勇気と忍耐を胸に平和への道を全力で開いて行くことを約束して参りました。

 


日本のパレスチナ平和構想「平和と繁栄の回廊」構想について

「平和と繁栄の回廊」構想とは、日本、パレスチナ、イスラエル、ヨルダンの地域協力により、パレスチナの経済的自立を目指す日本が進めている取り組みであり、具体的にパレスチナの西岸地区のジェリコに農業加工団地の整備が進められました。

水道や電気などのインフラが整備された現地では、特産のオリーブの葉を利用したサプリメントや化粧品を製造し販売する会社と梱包用の緩衝材の製造会社が操業中で、今後は冷凍野菜・ミネラルウォーター・再生紙・オーガニック石けんなどの製造会社が操業を目指して準備をしているとのことでした。

日本が中心となってパレスチナ、イスラエル、ヨルダンが一緒に進めるこの事業の推進は、中東の恒久的平和の道を開く大きな力になることを確信して参りました。

将来は、ユニセフとの連携のもと、このジェリコ農業加工団地で大きく成長した難民の子どもが活躍できる環境の整備も有意義であると考えています。



おわりに

大変にありがとうございました。 輿水 恵一